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第75回 値引を依頼された場合、断るか・受け入れるかの判断基準は?

こんにちは。岡山県倉敷市の会計事務所、税理士法人エイコーです。

 

今回は、

値引を依頼された場合、断るか・受け入れるかの判断基準は?

というテーマでお話をさせていただきたいと思います。

 

お得意先に大きな値引を依頼された場合、受け入れるか拒否するかについて

何を判断基準にしていますか?

 

数字をその判断基準にしている場合、粗利益率と値引き幅とを比較することになります。

しかし、自社の粗利益率が何%なのかを正しく把握していないと間違った判断をしてしまいます。

 

今回は、判断基準としての粗利益率は全部原価計算ではなく

直接原価計算の粗利益額を基準にして計算しましょう、

ということをお伝えしたいと思っています。

 

 

 

得意先からの15%値下げ要求は断るべきか?

あなたは製造業を営むA社の経営者です。

とある製品を作っているのですが、その製品の粗利益率は10%(原価率90%)です。

なかなか儲かりませんが、数をたくさん売ることで何とかやっていけています。

 

しかし、ある日突然当社の売上高の2割を占めるお客様Bから

「来月から15%の値引きをお願いできないか」と言われてしまいました。

 

詳しく聞いてみると、その値段で取引ができないかと他から営業が来ている

とのことでした。

このお願いを断ると、取引がなくなってしまうことは間違いありません。

 

ここで社長であるあなたはどういう判断を下しますか?

 

・・・・

 

「10%しか利益の出ない製品を15%も値引きしてしまうと作れば作るほど赤字が出てしまう!」

ということで断るでしょうか?

 

あるいは、

「売上高がさがるのは嫌なので、損は覚悟で受け入れるしかない!」

といって、値引き要請を受け入れるでしょうか?

 

 

いずれにせよ、何か明確な根拠があったほうがいいですよね。

今回は値引き要請に対する数字による考え方を示してみたいと思います。

 

 

当社の原価率は90%ではなく50%

ここで、よく考えていただきたいのは

「本当にウチの粗利益率は10%なのだろうか?」ということです。

 

例えば、自社の損益計算書が以下のとおりだったとします。

 

売上高   10,000

製造原価   9,000

売上総利益  1,000

販管費      900

営業利益     100

 

売上10,000に対して製造原価が9,000かかっており

売上総利益金額が1,000となっています。

 

計算すると利益率は1,000÷10,000=10%

確かにウチの粗利益率は10%です。

 

この状態で15%も値引きをしてしまったら、売れば売るほど5%の赤字になってしまう・・・

と判断をしてしまうと思います。

 

しかし、この決算書の数字で自社の事業構造を判断してはいけないのです。

 

どういうことかというと、

製造業の製造原価の中には固定費が含まれている、ということです。

 

会計的な考え方では、製造原価は原価としてみていますが

経営的な視点からは、その製造原価は変動費と固定費に分解する必要があるのです。

 

売上高に比例して発生する費用である変動費と

売上の増減に関わらずある程度一定額である固定費は

同じ製造原価でも経費の性質が全く異なっています。

 

売上原価9,000の内訳が

材料費 5,000

労務費 3,000

その他 1,000

となっていた場合、

 

変動費は材料費の5,000で

残り4,000は固定費です。

 

ということなので、

売上高 10,000

変動費  5,000

粗利益  5,000

固定費  4,900

経常利益   100

 

となります。売上高10,000に対して粗利益額が5,000なので

5,000÷10,000=50%

 

この数字が当社の粗利益率であり、これを基に判断をすべきだということです。

 

 

決算書の表示で事業構造を判断してはならない

先ほど示したように、当社の損益構造が

 

売上高 10,000

変動費  5,000

粗利益  5,000

固定費  4,900

経常利益   100

 

であるならば、私たちの判断がどう変わるかというと

 

売上高が全体の20%であるB社からの値引き要請を断った場合

売上高が10,000×20%=2,000減少します。

粗利益率は50%なので、2,000×50%=1,000

ということで、粗利益額は1,000減少します。

 

一方、15%値引き要請を受け入れると

粗利益2,000×15%=300

がなくなることになります。

 

以上のように、

断れば粗利益が1,000減少し、値引を受け入れれば300円減少します。

 

値引を受け入れたほうが会社全体の損失は少なくて済むということになります。

 

これは仕事を断っても固定費は簡単には削減できない、という理由からです。

 

確かに原価率は90%かもしれませんが、実際に仕事をしないことによる

経費削減は変動費部分(50%)だけです。

 

どちらの計算が間違っていて、どちらの計算が正しいということはありません。

いずれも正しい計算の仕方ではあります。

 

しかし、製品の製造にかかったすべての費用を原価として考える全部原価計算では

「製造の減価はいくらかかっているのか?」は分かります

 

「売上数量が減れば(あるいは増えれば)利益はどうなるのか?」については

計算するのが大変(できないとまでは言いません)です。

 

 

 

財務的なアドバイス

値下げの要求を受けた場合の損益シミュレーションをしてみました。

そして、値引を受け入れたほうが損失が少なかったという結果が出て

値引を受け入れようということに決まったとします。

 

実は、そのシミュレーションだけでは不足していることがあります。

それは、キャッシュがどうなるか?という観点です。

 

要求を受け入れた場合と、お断りして取引がなくなってしまった場合とを

比べて、どちらがマシかを判断するだけではダメです。

 

キャッシュがどうなるのかを確認し、問題が発生するのであれば

手を打つ必要があります。これが財務的な視点です。

 

減価償却費はいくらなのか。

借入金の返済はいくらなのか。

返済原資は不足していないか。

その結果、キャッシュがどうなっているのか

 

もし、返済原資が不足していたとしても手元のキャッシュが潤沢であれば

当分は大丈夫でしょう。

 

また、返済原資が不足して手元のキャッシュが少なければ

できるだけ早く資金調達をしておかなければなりません。

 

金融機関の協力は得られるのか?

定期預金はいつでも解約できるのか?

そういったことの検討が必要です。

 

 

経営的なアドバイス

以上は数字によるアドバイスですが、経営的なアドバイスもさせていただきたいと思います。

 

値引を受け入れたほうが、自社の損益に与えるマイナスの影響は少なかったとします。

しかし、一度値下げを要求してきたということは、

今後も値下げの要求をしてくる可能性もあるということです。

 

今回の値下げは「時間を稼いでいる」という意識で受け入れることが大切です。

 

いくら粗利益があるとはいえ、あまりに低い粗利益額で受けてしまうと会社存続が危うくなってしまいます。

粗利益がゼロになるよりはマシ、ということで受けているにすぎません。

 

変動費は販売数量に比例して発生する経費ですが、

固定費は時間経過に伴って発生する経費です。

 

固定費をまかなう粗利益が必要なのですが、それが生み出せなくなってしまうのです。

こんな状況を長く続けていけるはずもありません。

 

値下げによって減った粗利益を挽回するために

新たな売上高や得意先の開拓等を行うための時間稼ぎをしているという意識を持ってください。

 

時間を稼いで、もっと儲けさせていただけるお客様が現れたら、

値上げのお願いをするなどして取引を断られるようにするというわけです。

 

 

以上が、値下げを要求された時に検討すべきことです。

・自社の損益構造を直接原価計算で把握して、粗利益を簡単に出せるようにしておく。

・値下げは財務を悪くするので、事前に対応が必要か、対応は可能かを検討する。

・値下げは時間稼ぎ。そのためにも営業力はとても大切。

 

参考にしてみてください。