不動産を持たざるとどうなるのか?
中小企業は持たざる経営をしなくてはならない、とお伝えしました。
できることとできないことがあるのは承知の上でご提案しています。
今回は、できるだけ不動産を持たないようにしましょうというご提案で、
借りる場合と買う場合とで、損益やキャッシュフローがどのように変化するのか?
を確認したいと思います。
事業をしていくうえで事務所や事業所を構えるので不動産は必要です。
その際に、買うか?借りるか?という選択肢があります。
「家賃や地代を払うのはもったいない」
「借入金の返済が終われば会社の資産になるから」
などの理由で、金融機関で借り入れをして購入しようとする方が多いように思います。
確かに、いくら地代や家賃を払っても自分のものにはなりませんから
その気持ちも分からないではありません。
しかし、もったいない・もったいなくない、という物差しもありますが、
買えるのか?返せるのか?という面からも考えたことはありますか?
不動産を借りる場合、地代や家賃を支払うこととなり、それは会社の経費になります。
では、不動産を買う場合、どんな支出があり、どんな経費があるでしょうか?
建物や駐車場設備であれば取得費を長期間で償却していきます。
購入・建築する場合に多額のお金がかかりますが、減価償却によって
少しずつ経費にしていくので1年1年は大した金額になりません。
また、固定資産税が必要になりますが、これは全額経費になります。
さらに借入金で不動産を購入する場合には、毎月の返済があります。
返済には、元金の返済と利息の支払いがありますが経費になるのは支払った利息だけです。
このように考えたことはないでしょうか?
「賃貸しているものを銀行で借り入れをしたお金で購入して、
家賃と同じぐらいの返済にすればお金は回る」と。
そして、返済が終われば晴れて自分のものになる、ということです。
しかし、実際に不動産を購入した場合、それは間違いだと知ることになります。
(気付かない人もいるかもしれませんが。)
実際に、地代・家賃を支払わなくなったので利益は増えるかもしれません。
しかし、その利益というのは表面上のもの。キャッシュフローとは異なります。
これを仮の数字で説明します。
利益が2000万円コンスタントに出ている会社があるとします。
家賃を年間600万円ほど払っていて、家賃がもったいないので
新しい場所に土地建物を1億円で購入するため、返済を15年で融資を受けました。
損益計算書を見てみると、
・年間600万円の家賃の支払いがなくなる △600
・支払利息の増加 +100
・固定資産税の支払い +100
・減価償却費 +100
となっています(適当に数字を入れました)。およそ300万円の経費が削減できています。
よかったですね、と言いたいところですが2つほど忘れているものがあります。
ひとつめは①借入金の返済です。
1億円を15年で返済するので、約670万円の支払いがあります。
皆さんご存知の通り、借入金の返済は損益計算書に記載されていません。
もうひとつが②法人税です。
法人税率を35%とすると、300万円の利益が増えたので
約105万円の法人税が余分にかかります。
それまでは
税引前利益2000万円-法人税700万円=税引後利益1300万円
だったのに対して、購入したことにより
税引前利益2300万円-法人税805万円=税引後利益1495万円
と改善されたように見えます。(法人税率を35%で計算しています)
しかし、購入した場合はさらに借入金の返済670万円があるのです。
減価償却費100万円を考慮しても、購入した場合のキャッシュフローは
1495万円+100万円-670万円=925万円
となります。
税金の負担が重いといって節税商品(保険など)の購入などをしてしまえば
目も当てられないような財務状態になってしまうのは間違いありません。
これを15年続けてやっと借入金を返済することができ、
自分のものになったと言えるのです。
15年以上もある程度の利益を出し続けることができるのであれば問題ないと思います。
なかなか中小企業では難しいというのが実情ではないでしょうか。
私たちが不動産購入を相談された場合は、月次決算書の資金別貸借対照表を広げ、
現在の資金の状況や、これからの損益についてどのようになるのかを
ご説明するようにしています。
そして、不動産はできるだけもたないほうが会社の資金繰りは楽になる
ことをご理解いただけるようです。